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「Scrapbox Drinkup #10」現役編集者と漫画家が語るScrapboxを使った書籍制作術

· #イベントレポート
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ドキュメント共有サービス「Scrapbox」を提供するNota Inc.が、Scrapboxユーザーと開発者を集めて不定期に行う情報交換会「Scrapbox Drinkup」。

2019年9月5日に開催した記念すべき10回目のDrinkupは約30名が参加しました!

今回のテーマは「Scrapboxで本を書く」。

エンジニアなどが開発現場で利用しているイメージの強いScrapboxですが、創作・執筆活動においてはどのように活用できるのでしょうか?

異なる分野で活躍する2名のライターにご登壇いただき、事例をご紹介いただきました。

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「Scrapbox Drinkup #10」登壇者のご紹介

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小澤みゆきさん

フリー編集者。文芸プロジェクト「海響舎」主宰。これまでの活動は、文芸同人誌『かわいいウルフ』、エッセイ「物語は生きているし、愛は永遠なのだから」(『文學界 2019年9月号』掲載)、エッセイ「彼女を信じてるから同人誌を作った」(『新潮 2019年8月号』掲載)など。

Twitter:@miyayuki7

Instagram:@miyayuki777

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湊川あいさん

フリーランスのWebデザイナー・漫画家・イラストレーター。マンガと図解で、技術をわかりやすく伝えることが好き。 著書『わかばちゃんと学ぶ』シリーズが全国の書店にて発売中のほか、動画学習サービスSchooにてGit入門授業の講師も担当。 マンガでわかるGit・マンガでわかるDocker・マンガでわかるRubyといった分野横断的なコンテンツを展開している。

Twitter:@llminatoll

小澤みゆきさん「Scrapboxで文芸同人誌を作って700部売った話」

まず1人目の登壇者はフリー編集者の小澤みゆきさん。20世紀の英国作家・ヴァージニア・ウルフの作品の魅力を多くの人に伝えたいと、2019年に文芸同人誌『かわいいウルフ』を発表。作品の解説や翻訳者へのインタビュー、作中に出てくる料理の再現、21名によるウルフ作品の感想文など、ウルフ愛の溢れる内容が好評を博し、これまでに700冊を売り上げました。

小澤さんはこの本の制作・販売にあたり、企画・装丁・編集・営業をほぼ1人でこなしたと言います。そこで活躍したのがScrapbox。どのようにScrapboxを活用したのか、7つのポイントをお話してくださいました。

『かわいいウルフ』制作におけるScrapbox活用法

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  • 活用法その1「読書メモ」

作品を解説するうえで、作品のあらすじや感じたことをまとめる「読書メモ」としてScrapboxを活用。解説本や論文など関連文献のリンクを貼ったりしながら情報を整理し、文章の骨組みを整理していった。

  • 活用法その2「ラフな台割作成と進捗管理」

制作当初のラフな構成をScrapboxで管理。「●●ページは執筆中・●●ページは校了済み」など、各ページの進捗状況がわかるようにした。

※「台割」= 本の設計図。どのページに何を書くかを一覧でまとめたもの

  • 活用法その3「レイアウト案やキャッチコピー案の共有」

レイアウトやキャッチコピーの案をScrapboxで友人に共有して意見を求めた。画像を貼り付けてテキストを載せ、そこにコメントを入れてもらいながら複数人で比較・検討を行った。

  • 活用法その4「インタビュー文の校正」

ヴァージニア・ウルフの作品を訳された翻訳家へのインタビュー文を翻訳家本人に校正してもらう際、Scrapboxで共有した。「ここはもう少し口語っぽい雰囲気にした方がいい」など、コメントを入れていただきながら共同編集で仕上げていった。

  • 活用法その5「営業先のリストアップ」

本を販売するために、営業先のリストをScrapboxで作成・管理した。同人誌を扱っている新刊書店や古本屋をリストアップし、連絡先を記入し、メールや電話でアポイントメントをとっていった。交渉が成立した販売先の情報はGoogle スプレッドシートの売上管理表に移していった。

  • 活用法その6「第二版の修正作業」

増刷で誤字脱字を修正する際にScrapboxを活用。数名で内容を確認し、誤字脱字を見つけてはScrapboxで共有し、それをまとめてInDesignに反映した。他のコミュニケーションツールも使ってみたところ、情報が流れてしまいやりにくかったが、Scrapboxは有効。一週間ほどで対応できた。

  • 活用法その7「イベントの管理・構想」

出版記念イベントを3つの書店で行う際、どの店でどんな話をするのか、構想をScrapboxにまとめた。

  • 活用法その8「プレスリリースや見本誌送付先のリストアップ」

出版にあたり文学系の媒体や雑誌にプレスリリースや見本誌を送付する際、送付先のリストをScrapboxで作成。会社名、住所、メールアドレスなどをメモした。書評を掲載してもらうなど、本を紹介してもらう目的だった。

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制作から営業まで、さまざまな用途でScrapboxを活用した小澤さん。最後にScrapboxの魅力を語ってくださいました。

  • Scrapboxはインデントのつけ方とリンクの記法さえ覚えれば自分のように文系の人でも簡単に利用できる
  • テキストをみんなで同時編集できるため、編集や校正で協力してもらった友人ともリモートでやり取りできた。Scrapboxは原稿をチームで編集・校正するのに最高!
  • 画像の共有が簡単にできるのも魅力。チームで表紙画の比較をする際に便利だった

湊川あいさん「読者と著者をつなぐ! #わかばちゃんと学ぶ シリーズの要望をScrapboxで受け止め、循環させている話」

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2人目の登壇者はWebデザイナー・漫画家・イラストレーターなど、フリーランスとしてさまざまな肩書きで活躍する湊川あいさん。漫画や図版でわかりやすく解説した技術書など、これまでに多くの書籍を出版してきました。著書『わかばちゃんと学ぶ』シリーズは全国の書店で好評発売中。出版後は湊川さんのもとに多くの読者から問い合わせがあるそうです。読者の声をないがしろにせず、次回作に繋げたり、ファンの要望に応えるために、Scrapboxを利用しているそうです。

読者の声をScrapboxでメモして公開。「1 対 大勢」ではなく「1 対 1が無数にある状態」を実現

出版物や電子書籍が世間に出回るとツイッターなどで色々な反応がある。

例えば……

「●ページのインストールができません!」

「バージョン上がったけど対応済みですか?」

「●●編も出してください」

「他のアプリケーションの漫画も描いてください (半分冗談) 」

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こうしたさまざまな要望やアイデアを「対応可能か不可能か」「緊急性があるかないか」という観点で分類し、読者に対するアンサーをScrapboxにまとめて公開。各コメントをクリックすると、それを発言した人のツイッターリンクや質問箱につながる。問い合わせや発信をした人にはリプライで回答するだけでなく「ここに載せました」とScrapboxのリンクを教える。

Scrapboxに読者の声を集めて公開することで、それが実現されるどうかという結果に関わらず、「自分の声が届いている」という読者の充実感を満たすことができる。同時に、自分(筆者)自身としては、どんな要望が多いのかを把握することができる。

こうしたページの作成も、ブログだといちいち編集ボタンを押さないといけないため、心理的障壁を感じてしまうが、Scrapboxだとスマホでも直接書き込むことができて簡単。Scrapboxで読者とコミュニケーションをとることで、「1 対 大勢」として捉えるのではなく、「1 対 1が無数にある」そんな感覚を得ることができ、コミュニケーションが楽しくなる。

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開発者daiiz「Scrapboxで技術同人誌を制作中」

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お2人の話に続いて、Scrapbox開発者のdaiizが登壇。

Nota Inc.に入社する前からScrapboxユーザーだった彼は、現在Scrapboxで技術同人誌を執筆中。同時に、ライターや編集者がさらに活用しやすくなるようブラウザ拡張機能の実装を進めています。

今回はその途中経過を報告しました。

これまで個人的に書き溜めてきたScrapboxページを元にして一冊の本をつくれないか実験中。編集はすべてScrapboxで完結させ、最終的には印刷所にそのまま入稿できるデータを仕上げられるようにしたい。

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Scrapboxを使った書籍制作の流れ(拡張機能実装中)

  • 目次ページを作成し、リンク記法で各章(Scrapboxページ)へのリンクを設定
  • 章ごとにScrapboxページを書く
  • 各章のページから参照されているが目次には存在しないページがあった場合は「Appendix(付録)」として巻末に収録される
  • 全ページが校了したら自動で印刷用のトンボ付きPDFを書き出すことも可能。LaTeX文書からPDF/X-1a形式のPDFファイルを生成する。画像はRGBからCMYKに自動で変換される。

書籍制作にScrapboxを使うメリット

「本を書きたいけど何を書いていいかわからない」という人はScrapboxで日常的に何かを書き溜めることで、ネタは十分にあるという状態が自然と訪れる。これにより、人生の節目で撮る記念写真のように、個人やチームで溜めた知見をそのときのスナップショットとして書籍化することができる。

開発者shokai「Scrapboxは隙のないネタ帳。書籍執筆にも有効」

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daiizに続いて登壇したのは、同じく開発者のshokai。「思考の整理」といった観点で書籍執筆とScrapboxの親和性について語りました。

Scrapboxは本来長い月日をかけて研究や考察、意見交換などをするためのフォーマット。文章を何度も編集したりリンクを整備し続けることで考えが深まったり、見落としに気付いたりしながら、自分の中で思考の“隙”がなくなっていく。Scrapboxを“隙のないネタ帳”として書籍の執筆に活用することで、思考が構成が整理された漫画やエッセイが書けるようになるのだと思う。

出版物は「書く側がコストをかけて読む側に配慮する読み物」であるのに対して、Scrapboxは書く側がとても楽なユーザーインターフェース。書き始めるハードルが低く、書籍制作を見据えた執筆にもおすすめ。

LT大会&懇親会!!

イベントの後半戦は、恒例となっている自由参加のLT大会と懇親会。今回のLTでは5名が登壇し、ユニークなScrapboxの活用事例などを紹介しました。その模様をダイジェストで振り返ります!

LT① あっぷるささきさん「Scrapboxをラジオにしてみた」

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偶発的な出会い(serendipity)をつくるために研究。Scrapboxを活用して個人で配信できるラジオを考案した。Scrapboxで台本ページを作成して、自分で製作したホームページに貼り付けると、視聴者はyoutubeの動画とともに配信者の音声ストリームが同時に楽しめる。

これにより、視聴者は自分の好きな配信者がレコメンドする情報と出会うことができる。

LT② castaneaiさん「お絵描きとScrapbox」

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ゲームのプログラマーである傍、技術同人誌を書き、イラストを描いてる。Scrapboxに制作途中のイラストをどんどん載せ、自分で気づいたことをコメントする。後で見返したときに絵の傾向やよく書いているコメントがわかり、技術の向上に繋がる。

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LT③ masuipeoさん「小説が読めない人もScrapboxを使えば読めるようになるか」

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増井技術士事務所の代表として、これまでに多くの技術書を手がけてきたが、小説が読めない。「Scrapboxを使って小説を読めるようになるか」実験してみた。小説をダウンロードしてルビを除去し、名詞をリンクに変更。作者が伝えたいキーワードは何度も出てくるだろうと考えてリンクの数などを分析してみてが、結局作者が伝えたいことにはたどり着けなかった。しかしScrapboxの楽しさには改めて気付くことができた。

 

LT④ geta6さん「pixiv SketchチームのイテレーションにScrapboxを活用中」

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自分が所属するpixivSketchチームでは約一週間というイテレーションの期間内にスケジュールや共有事項の確認の目的でScrapboxを活用している。共有と記録が同時に行えるのがScrapboxの魅力。

LT⑤ 増井俊之(Nota Inc. CTO / Gyazo & Scrapbox発明者)「Scrapboxが書籍に代わる未来?」

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ページ数の制限がなく、リンクを貼ることもでき、読者が編集できるという新しい読みもののカタチ……Scrapboxそのものが書籍の役割を担うことができるのではないだろうか。

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執筆活動という文系の領域においても活用できるScrapbox。「本を書きたい」と漠然と思っている人は、Scrapboxを開いてみてはいかがでしょうか?

同時に思考の扉が開き、創作意欲が掻き立てられるかもしれません。

(文・写真 下條信吾)